次代を担う 意気!域!農業人(はるんちゅ)

2016.03.01

 

生産・加工・販売の6次化※1が目標。

祖父と父が苦労して切り拓いた道をさらに発展させたい。

「石垣牛」※2知られる石垣島。祖父や父は繁殖経営に長年取り組んできた。今号は師匠でもある父のもと、「石垣牛」生産という肥育経営に全力で取り組む、畜産歴4年目の若き農業人を紹介。

※1農林水産省では、雇用と所得を確保し、若者や子供も集落に定住できる社会を構築するため、農林漁業生産と加工・販売の一体化や、地域資源を活用した新たな産業の創出を促進するなど、農林漁業の6次産業化を推進しています。

※2「石垣牛」とは、八重山郡内で生産・育成された登記書及び生産履歴証明書を有し、八重山郡内で生後おおむね20ヶ月以上肥育管理された純粋の黒毛和種の、去勢及び雌牛のことをいいます。

 

丘陵地に広がる広大な牧場

子牛の世話が毎日の日課、子牛も寒い日には防寒着を着ける

 数日前には沖縄でもみぞれが降った1月下旬、「南の島石垣空港」の玄関を出ると、取材陣は島の北東部に突き出た平久保半島へ向かった。

 石垣島らしい山々が連なる道を走ると、久宇良岳の麓、青々とした海に面した丘陵地に広がる緑の牧場が見えてきた。

 到着すると、牛舎からは朝ごはんを終えたばかりの牛たちの満足そうな鳴き声が聞こえてくる。

 「最後の餌やりがもう少しで終わるので、待っていてくださいね」

 その牛舎から笑顔をひょっこり出して迎えたのは、今号の農業人、多宇翔司さん(25歳)だ。周りでは、父司さん(55歳)がトラクターで牛舎に敷き藁を運び、母明子さん(49歳)と婚約者の玉那覇笑里さん(24歳)は子牛の世話や哺乳瓶の洗浄と、各自テキパキと作業に励んでいる。

 朝の作業がひと段落したところで、取材開始。はにかみながらも丁寧に取材に応じてくれた。

 

親子三代、畜産経営に情熱を注ぐ

幸喜課長と牛の体調をチェックする翔司さん

 もともと、畜産経営は祖父脩さん(85歳)が始めた。それから父司さんの代で繁殖専門「つかさ牧場」を立ち上げ、年々規模を拡大。翔司さんも小学生のころから忙しい父を手伝うようになった。

 父は大規模な輪換放牧を行い、低コスト生産で高い成果を収めたとして、農林水産祭の畜産部門では沖縄初となる天皇杯を受賞した畜産の達人。父の背中を見て育った翔司さんが、畜産業に魅力を感じ、家業を継いだのは自然の成り行きだった。

 そんな翔司さんは、八重山農林高校の畜産課を卒業後、茨城県にある畜産専門学校で2年間学び、そこで人工授精士の資格を取得。その後さらに群馬県の専門学校で食肉に関する知識や技術を1年間かけて修得した。

 翔司さんの帰郷を見計らい、父司さんが肥育専門「と~家ファーム」を設立。「と~家」は、多宇家の屋号から名付けたそうだ。

 「卒業と同時に、いきなり肥育経営ですからね。あまりの忙しさに学生気分が一気にぶっ飛びましたね」

 と苦笑いする翔司さん。

 今では、母牛136頭、肥育牛59頭を飼育。年間122頭ほど子牛が生まれるが、半分はセリ、もう半分は肥育牛や母牛候補として育てている。

 

人気の島グルメ「石垣牛」の魅力

全国的に人気の「石垣牛」

 「石垣牛」は、全国的に認知が高く、島を訪れる観光客にも人気の島グルメだ。

 平成12年の「九州・沖縄サミット」の晩さん会ではメインディッシュにも使用され、各国の首脳が絶賛したことで人気に火がついた。

 石垣牛は生後7、8か月の子牛を1年半かけ肥育して出荷。肥育中の健康管理にはことのほか気をつかう。

 「わずかな体調変化を一度見過ごすと、死んでしまうこともあるくらい牛はデリケートな生き物。鼻水を垂らしていないか、咳をしていないか、一頭ごとに入念に観察します」

 毎朝の健康チェックという重要な作業を終えた後、朝夕2回の餌やり、その合間に牛舎の掃除や牧草の収穫作業など暗くなるまで作業は続く。

 「世話は全然辛いと思わない。むしろとっても楽しいですよ」

 そう話す翔司さん。ひたすら牛と向き合う。

 

家族の絆で目指すは6次産業化

自慢の肥育牛と多宇さん家族

 石垣島では近年、若い後継者が増えつつある。そんな若い世代が集う石垣島和牛改良組合に翔司さんも所属。毎月勉強会を開くなど、石垣島の畜産業の発展に向けて、真剣になって取り組んでいる。

 現在、石垣牛を年間40頭ほど出荷しているが、目標は繁殖から肥育までの完全一貫経営だ。

 自家生産の新鮮な牧草と、広大な放牧地で伸び伸び育った子牛は、肢腰が強く育ちが良いと購買者からも評判。その子牛を大事に肥育するので肉質の良さは言うまでもない。

 「今は、牛舎のスペースが限られているのでこれ以上の肥育頭数は増やせませんが、いずれは100頭まで増やしたい。将来は牛肉販売やレストラン経営も視野に入れています。手塩にかけた牛肉の旨さを自分たちの手で伝えたいですからね」

 実は、弟の巧さん(19歳)が今年3月、翔司さんと同じ専門学校を卒業。4月からは東京の肉屋への就職が決まっている。購買者の視点も加わり、6次産業化の実現に向けて、家族が一致団結している。

 「やりたいことは沢山ある。家族で力を合わせて一歩ずつ前に進んで行きたい。考えるだけでワクワクしますね」

 家族の繋がりを大切にする、石垣島の畜産業の未来を見据える翔司さんの目が輝いた。

 

父の声

多宇司さん

小さいころから牧場に連れてきて遊ばせていた。「夢のある、儲かる畜産でなければ後継者は育たない」と道を拓いてきたつもりです。

 

 

JA担当者の声

八重山地区畜産振興センター

畜産課長

幸喜英信

県外で畜産を学び、将来を見すえた仕事をしている。これからの八重山地区の畜産を担っていく人物で、楽しみに応援したい。

 

 

 

JAおきなわ広報誌:あじまぁ

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