次代を担う 意気!域!農業人(はるんちゅ)石垣市・嘉藤通卓さん

2017.06.01

 

 

初めて食べた「美味しさ」に挑戦したい。

観光で訪れ、農業の魅力からパインアップルに導かれた。

海が見たくて訪れた石垣島ですぐさま大自然の虜に。農業の楽しさに気づき、パインアップルの美味しさに導かれ気が付けば10年が経った。「これからは自分なりの栽培のかたちを確立したい」と一途に情熱を傾ける浪速の農業人を紹介。


 

島の二大基幹作物

於茂登岳とパインアップル畑

 ゴールデンウィーク明けの5月上旬、「南ぬ島石垣空港」の玄関を出ると、汗ばむ熱気が取材陣を出迎えた。この日の最高気温は29度。梅雨入り前にも関わらず、早くも夏の訪れを感じさせていた。
 頂上付近に白雲がかかる沖縄最高峰の於茂登岳を右手に見ながら、島の中心に位置する嵩田地区へ向かった。石垣島には昭和10年に台湾からパインの苗が運び込まれ、サトウキビと並ぶ二大基幹作物として島の経済を支えてきた。
 そんなパインが整然と広がる畑の一角で取材陣が待っていると、ゆっくりとしたスピードで営農トラックが到着。
 「ちょうど出荷を終わらせてきたところです。今出荷のピークなんですよ。農家にゴールデンウィークはありません(笑)」
 忙しさでシャツに汗を滲ませながらも、くしゃっとした優しい笑顔で取材陣を迎えてくれたのは、今号の農業人、嘉藤通卓さん(49歳)だ。

 

 

初めて美味しいと思ったパイン

これから出荷するパインアップル

 「出身は大阪です。ダイビングが目的で16年前に初めて来て、すっかり魅了されて翌年も迷わず来ました。その時にサトウキビの収穫体験をしたんです。それが意外と面白くて」
 石垣島の自然に魅了され、農業が自分に合っていると感じた通卓さんは移住を決意。翌年には島の住民となった。
 「最初はサトウキビを栽培したんですけど、面積も少なかったので収入がそんなに無くて。そんなとき石垣島のパインを食べて美味しさに衝撃を受けました。それまでパインを美味しいと思ったことは無かったんですけど(笑)」
 そんな「石垣島のパイン」に魅了された通卓さん。その美味しさに挑戦することを決意した。
 「最初は苗が中々手に入らなくて、300坪(10アール)くらいしか植え付けられませんでした。それでも初めての収穫は楽しみでしたよ。でもね、パインが大きくなってくれないんですよ。当時はセリ販売だったので、自分のパインは中々高値がつきませんでした」
 通卓さんが苦労した当時を振り返る。
 それからパイン栽培にひとしお情熱を傾け、今年で10年目を迎えた通卓さん。今では4800坪(160アール)の規模を1人で栽培している。平成23年からは、JAのパイン買取も始まり、セリ販売と違って市場価格の乱高下に左右されないことから、前よりは安心して生産に取り組めるのだそうだ。

 

大切なパインを守るために

 そんな通卓さんが手間を惜しまないのは、収穫前のパインに日焼け対策を施すこと。一つひとつ丁寧に、実の周りにある長い葉っぱで包んで、風通しも考えながら適度な隙間をつくり、最後は頭長を針金で結ぶ。果実を強い日差しから守り、台風時に鋭い葉が果実に刺さるのを防ぐのだという。
 「多いときには1日1000本ぐらい包みます。中腰での作業なので腰がきついですね。まだこんなに残っています(笑)」
 そう言いながらも、慣れた手つきで1本束ねて見せた通卓さん。ほ場にずらりと並ぶ包まれたパインは、束ねた葉の表面が日に焼けていて、果実が大切に守られているのが目に見える。通卓さんのパインへの愛情と本気度が伝わってくる。
 「やっぱり一番の悩みは鳥獣被害ですね。カラス、キジ、イノシシ、たくさんいますよ。大事なパインを食い荒らされちゃたまったもんじゃないですね」
 そんな苦労に通卓さんは一念発起。去年狩猟免許を取得し、現在はほ場にわな猟を仕掛けるなど、鳥獣被害から大切なパインを守るために奮闘中だ。

 

熱意は地元農家も太鼓判

 所属する八重山地区パイン生産部会では、講習会にも積極的に参加し、肥培管理や鳥獣害対策などについてベテラン農家に質問攻めだそう。平成27年には、76人が所属する同部会から「定時・定量・定品質」に努める姿勢が評価され、優良農家として推薦表彰された。通卓さんのパインへの熱意は、地元のベテラン農家も太鼓判を押す。
 「パインは品種によって植付や収穫の時期が違います。うまく組み合わせることで、自分なりのパイン栽培を確立していきたいですね。夏場が忙しい時期なので、大好きな海に全く行けてないんですが(笑)」
 大好きだったダイビングよりも、今ではパイン栽培に一途な通卓さん。そんな通卓さんが石垣島の豊潤な土壌で育むパインは、これからも年々美味しさを増していくに違いない。

 

 

 

JA担当者の声

八重山地区営農振興センター

上原 正司

 非常に勉強熱心で、より良い苗を作ろうという、パイン栽培への厳しい姿勢に感銘をうけます。温厚な人柄で、パインアップルへの愛情に並々ならぬものを感じます。

 

 

JAおきなわ広報誌:あじまぁ

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