次代を担う 意気!域!農業人(はるんちゅ)石垣市・新里朋矢さん

2019.07.01

 

しっかりした素牛を育てることが、よい肉質に結び付く。

繁殖から肥育まで、一貫した経営を独自の目線と家族の力でこなす。

 

現在は繁殖が8割合くらいだが、今後は肥育にもっと力を入れていきたい。学んできたこと、実践してきたことを余すことなく経営に結び付け、今できることに全力で取り組む農業人。

 

牛舎には元気な子牛もいました

JA石垣牛のふるさと石垣島

 国道を市街地向けに南下し、大浜で右折、雲のかかった於茂登岳を左手に望み、平坦な内陸部を行く。サトウキビ畑に囲まれた道沿いで、大小の牛舎2棟と牧草ロールの積まれた草地が広がっていた。

 牛舎の入り口で迎えてくれたのは新里朋矢さん(37歳)と妻・まり子さん(38歳)、それに5人の子どもたちで、今日は学校がお休みとのこと。疾風くん(11歳)、清良々さん(10歳)、鈴久くん(8歳)、笑梨さん(7歳)、琉矢くん(4歳)で、牛舎は遊園地のような賑わいである。

 「今日は暑いですよね。牛舎の陰にどうぞ」

 気さくな朋矢さんに案内され、子どもたちの元気な声が飛び交う中、インタビューが始まった。

 

 

一頭、一頭しっかりと飼育しています

農殖から肥育までの一貫経営

 農業大学校の肉用牛コースで学び、卒業後は2年間製糖工場で働いていた。しかし肉用牛がやりたくて、島内の中山牧場で繁殖に関する実践を積み重ねてきた。その傍らで自ら小さな牛舎と草地を購入し牛を飼い始めた。6年前には父・良光さん(62歳)から母牛29頭を譲り受けたのを機に牛舎を増改築。自分の牛と合わせ37頭で独立した。平成29年には石垣牛の増頭事業を活用した肥育と繁殖牛舎を建てた。

 現在は、母牛60頭と肥育牛「JA石垣牛」30頭を育てている。

 「JA石垣牛は『世界に誇れる最高の食材』だと思います。その生産に一から携わることが出来る!それが和牛一貫経営の醍醐味であり、魅力です。育てる中で、出荷前の大きく仕上がった肥育牛を見るとワクワクします。少しではありますが、育てた牛のお肉が我が家の食卓に並んだり、子どもたちのお弁当に入ったりすることもあります」

 4月に行われた第29回JA石垣牛肥育部会枝肉共励会では、朋矢さんの枝肉が最優秀賞に選ばれ、セリ単価の最高額を付けるという快挙を成し遂げた。秘訣を尋ねると、

 「しっかりした素牛をつくること。いい肉に育てるには、一にも二にも子牛のときの腹づくりが重要です」

 腹づくりとは、子牛の成長段階に合わせて餌を工夫しながら胃袋を作っていくこと。朋矢さんは生れてすぐに親牛から離し、月齢ごとにハッチ内で飼う徹底ぶりだ。

 「牛の個性もさまざまなので、一緒に育てると強い牛、弱い牛とばらつきが出てきます。一頭一頭をしっかりみていくことが大事です。また、成長の段階で食べるエサも違ってきます」

 

最優秀賞を獲得した朋矢さんの枝肉

夢だった家族での畜産経営

 朋矢さんの傍らに寄り添い、朋矢さんの言葉にうなずいていた妻・まり子さんは3月まで幼稚園教諭として勤務していた。

 5人の子どもたちのことやお互いの仕事に共通する姿勢、子牛の育て方など、意見交換をしてきた。幼稚園教諭の仕事が大好きだった、というまり子さんは、「いずれ家族で畜産を営みたい」という夫の夢を叶えるべく、迷ったあげくこの4月から経営に携わることになった。

 「(夫を)支えると誓ったので。そして親として、子ども達に働く背中を見て、育ってほしいと思っています」。

 学校が休みの日には、子どもたちも立派な戦力として手伝ってくれるそうだ。

 支えてくれている人がもう一人いる。現在、牧草の刈り取り作業の請負を専業にし、朋矢さんの牧草地も担当している父・良光さんである。

 「肥育にはこれまで供給が安定している輸入稲わらを使っていたのですが、去年の7月から自前の牧草を成長段階に合わせて2種類与えています。研究中ですが、肉質はA5ランクでBMS(霜降り度)が最高値の12と、良い結果です。コストも下がり、安全・安心の面からも続けていきたいです」

 

休みの日には家族全員で手伝うことも

優秀な種雄牛を育て地域を盛り上げたい

 昨年は15頭の肥育牛を出荷し、今年約30頭を見込んでいる。

 よりよいJA石垣牛を育てようと、朋矢さんの探求心は留まるところがない。種付け交配の際には枝肉の断面をイメージして、そこから逆算するのだという。

 「母牛の体型から肥育の仕上がりの体型をイメージします。どういう掛け合わせをしたら理想の体型になるか、種雄牛を選ぶ参考にして、今のところうまく補整できています」

 JA石垣牛肥育部会では、県の種雄牛の普及・向上を図ろうと、県有牛を選定する検定試験にも参加している。朋矢さんの牛が優秀な種雄牛として実績を上げれば、県有牛に選定されるという。

 「県有牛を使えばコスト的にもメリットがあるし、正真正銘の県産牛、ということにもなります」

 朋矢さんのところには、部会の後輩たちが教えを請いによく訪れるという。後輩たちに持つ知識のすべてで応える朋矢さん。 

 その姿を見守る妻・まり子さんは

 「これが我が家の幸せの形」とほほ笑む。 

 そして2人の背中を5人の子どもたちがまっすぐなまなざしで見つめている。

 

 

JA担当者の声

八重山地区畜産振興センター

畜産部畜産課 仲盛 択也

牛が大好きで、将来を見据えて取り組んでいます。肥育部会の若手リーダーとしても半端ない情熱で、みんなをひっぱっています。

 

JAおきなわ広報誌:あじまぁ

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