次代を担う 意気!域!農業人(はるんちゅ)名護市・新里滝一さん

2017.12.01

良い卵とは「安全・安心・新鮮」が鉄則。

「1日の仕事は、3万羽の鶏の顔を見ることから始まります」。

祖父の代から営む養鶏の世界に「いつかは挑戦してみたい」と頭の片隅に描いていた。幼い頃から慣れ親しんでいたものの、就農してから感じている生産者としての「責任」。厳しい衛生管理や鶏の健康管理、休む間もなく神経を研ぎ澄ませる。安全で安心、新鮮な自慢の卵に夢をかける期待の農業人を紹介。

 

やんばるに拓かれた巨大鶏舎群

入口の消毒シャワーとプール

 名護市中心部から国道58号線を北上し、屋我地島入口あたりから内陸部向けに勾配を上る。森の中を進み続けると、完全密閉型の大きな鶏舎が連なる「株式会社いなみねエッグファーム」が目に飛び込んできた。周囲には頑丈そうな防護柵が張り巡らされ、唯一の入り口には自動で噴霧されるシャワー設備が備わる。洗車機を通るように、ゆっくりと、車ごと消毒液を浴びて入場する。
 銀色に光る鶏舎の前で出迎えてくれたのは、今号の農業人、新里滝一さん(44歳)。清潔感が漂う真っ白なつなぎ姿が印象的で、理系の研究員のような雰囲気も感じた。
 「お待ちしていました。山の中でビックリしましたか?夜は真っ暗でちょっと怖いですが、天の川がはっきり見えてキレイな星空が楽しめますよ」
 穏やかに歓迎してくれた滝一さんの笑顔に、取材陣の緊張も一気にほぐれた。

 

父から託された三代目生産者

生みたての卵が検査を終えて流れてくる

 「ここは法人組織で運営されています。雛を育てる育雛舎と育成舎が各1棟、採卵を行う成鶏舎7棟が建っていて、1棟約3万羽を飼育する成鶏舎は、鶏舎ごとに管理者がいます。私は8年前、そのうちの1棟の管理を父から任されました」
 同社の飼養羽数はトータルで21万羽(3万羽×7鶏舎)に上り、県内最大の規模。創業以来、県全体の卵供給量の約2割、県北部に至っては約8割を占める割合だ。
 「祖父の代から養鶏業を営み、子どもの頃から鶏は身近な存在でした。30代半ばまで違う仕事をしていたのですが、いずれは父の後を継ぐ時が来るだろうと、頭の隅でずっと思っていました。父のビジョンがよく理解できたので、就農は機が熟したという感じでしょうか」
 父、隆さん(67歳)は、同社の7人の創業メンバーの一人で、平成7年の創業以来リーダーとして手腕を発揮してきた。鶏舎の管理を滝一さんに託したあとは、同社代表としての仕事に主軸を置いて、相変わらず多忙な毎日を送っている。
 「一つひとつ教えてもらいながら8年が経ち、まだまだ出来ないことも多いのですが、『鶏は奥が深い』という父の言葉がわかってきたかな、という感じです」
 一語一語、言葉をかみしめるような話しぶりから、誠実な人柄が伝わってくる。

 

徹底した管理で1日2万7000個

目視で確認することも怠らない

 「一番気をつけているのは鶏の健康管理です。健康な卵を産んでもらうには健康な鶏でなければいけません。ここでは鶏舎の温度や湿度、与える餌の量など、すべてコンピュータで管理しています」
 さすが県内最大規模の養鶏農場といったところだが、それだけでは不十分だという。
 「毎朝鶏舎に足を運び、鶏の顔を見ることから1日が始まります。トサカや目の色、お腹の膨れなど、異常のある鶏は一目で分かります。自分の目とデータを照らし合わせて、鶏の異常を早期に察知することが重要なんです」
 デジタルとアナログ、徹底した鶏の健康管理を滝一さんが教えてくれた。
 「事故を起こさず、病気を未然に防いで、鶏が卵を産みやすい環境づくりをするのが私の仕事です」
 鳥インフルエンザを始めとした家畜伝染病の対策も万全で、施設内は屋内外問わず消毒を行う。また、施設内で着用する作業服は施設内で洗濯し、一切外に出さない徹底ぶりだ。
 滝一さんの鶏舎からは一日約2万7000個の卵が出荷される。集卵センターには毎日7つの鶏舎から卵が集められ、ひび割れなどの有無をチェック後、集卵トレーに収められ、その日のうちにJAのGPセンター(選別や包装作業を行う施設)へ運ばれる。
 「エッグファームの卵は鮮度が一番の魅力。ここから出荷された卵は、翌日には県内JAファーマーズ、量販店に納品されます」
 安全・安心への責任を果たしつつも、産地直送の魅力を十分に発揮している。

 

良い卵をつくり続けるだけ

出荷トラックのコンセプトサイン

 「養鶏で疑問に思ったことを、父や他の鶏舎の管理者に相談できることも私の強みですね」
 同社は創業から22年が経過し、現在、後継者に任されている鶏舎は新里さんを含めて4棟あるという。頼もしい先輩がいて、冗談が言える同世代の仲間もいるのは恵まれた環境だ。
 そんな滝一さんは、卵の成分や栄養、歴史などについて知識が問われる「三ツ星タマリエ」(日本卵業協会主催)の資格や、鶏を食鳥として扱う際に必要な「食鳥処理衛生管理士」の資格も取得しており、現場以外での勉強にも余念がない。
 いなみねエッグファームの一員として、県内の養鶏業を担う滝一さんが、生産者として大切なことを話してくれた。
 「良い卵とは『安全・安心・新鮮』だということです。それをたくさんの人たちに食べてもらいたい。そのために出来る努力を考えて、続けていく。それに尽きます」
 食卓には欠かせない、〝当たり前〟のように目にする卵。滝一さんがつくる艶やかな卵は、これからも食卓の〝当たり前〟を支えていくに違いない。

 

 

JA担当者の声

JA北部地区
 畜産振興センター次長

宮城 太

見た通りの、まじめで温厚な人です。ここぞという時には責任をもって最後までやり遂げる静かなパワーの持ち主です。

 

お父様の声

株式会社いなみねエッグファーム代表

新里 隆さん

息子を信頼して任せており、その期待に十分応えてくれています。父としてこれからも応援し続けます。息子は未だに独身なので、この機会に新里家の花嫁を募集します。

 

JAおきなわ広報誌:あじまぁ

地域で頑張る農家を紹介する「農業人(はるんちゅ)」はあじまぁに掲載されています。
「あじまぁ」は組合員、地域とJAをむすぶコミュニティーマガジンです。各JA支店・JA関連施設(ファーマーズマーケット、Aコープ、JA-SS)よりお持ち帰りいただけます。

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