次代を担う 意気!域!農業人(はるんちゅ)糸満市・上原 陽さん

2018.11.01

 

「良い卵」とは、の問いの答を探求。

地域に寄り添い、地域の養鶏場を目指したい。

祖父の跡を継ぎ、20代半ばで経営者となった父の「卵」への情熱を見て育った。愛情を注いだ鶏が産んだ「はっこう卵」について、これからいろんな人と意見交換をしていきたい。人一倍の勉強熱心さで様々な可能性を見いだす若き農業人を紹介。

 

1万2000羽を飼育しています

親子で営む養鶏場を目指して

 近年まれにみる大きな台風24号、25号が相次いで過ぎ去った後、沿道には吹き飛ばされて葉もまばらな木々が目立ち、台風の凄まじさを物語っている。糸満市北波平で、祖父の代から養鶏場を営む上原養鶏場の上原陽さん(26歳)を訪ねた。

 県道沿いのサトウキビ畑に囲まれた一角であるが、遠くに高層住宅が立ち並び、周囲は徐々に宅地化が進んでいるようだ。

 父、上原肇さん(54歳)ともども配送車へ卵を運び込んでいる作業の真っ最中で、一段落後、終始言葉を選び、はにかみながら、養鶏農家として就農したきっかけを話してくれた。

 

父・肇さんに学びながら日々の飼養管理に取り組んでいます

 刺激になったスイス研修

 「小さい頃から休みの日にはここに来て、父の仕事を手伝っていました。進路を選択する際には、ごく自然に農学部を選びました。特に跡を継ぐということは考えず、大学時代に勉強したこと、見聞きしたことなどを通して、父がやっていることっていいなぁ、と思うようになりました」

 継ぐにしても、一度は社会に出ようか、あるいは他の養鶏場を見てきたほうがいいのか、と迷っていたところへ、スイス研修のチャンスをつかんだ。

 「スイスにはコミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャーという仕組みがあって、地域の人たちが出資して、農業者を支援し、有機農作物を作っていました。彼らの考え方は、『地元で採れた野菜はおいしいから』というのももちろんあるのですが、圧倒的に支持を得ているのは『環境にいいから』という地域のことを考えた循環型農業なんです」

 帰国後、かねてより父、肇さんの実践していた「安全でおいしい〝はっこう卵〟」づくりに確信を深め、自然と手伝うようになって3年目を迎えた。

 「実は面と向かって、跡を継ぐとか、という話はまだしていないんです。今は父のアドバイスもあって、全国農業会議所が支援している『農の雇用事業』の研修生として働いています」

 陽さんたちが、まず実践していることは飼料へのこだわりである。

 「トウモロコシや大豆の配合飼料がメインですが、それにヨモギやヨーグルト由来の乳酸菌や腸内環境の改善によいという炭などを加えたオリジナル発酵飼料(低脂肪・低カロリー・食物繊維豊富)を与えています」

 まさしく「はっこう卵」の名前の由来である。また、水にもこだわり水道水からイオン分解水を作っている。鶏の健康状態には、特に気を遣っていることが伺える。

 

JA担当者と鶏の様子を確認する様子

地域とつながる卵づくり

 陽さんは、1200坪(40アール)に鶏舎が6棟で1万2000羽を飼育する。産み落とされる卵は一日に約8500個で、3割は養鶏場内の売店で、7割は中卸を通じて県内の量販店や飲食店などに納められる。扱っている卵の種類は通常の赤卵、白卵に加え、烏骨鶏、また知る人ぞ知る南米原産の鶏、「アローカナ」の青みを帯びた珍しい卵も生産している。

 生みたての卵を購入できる売店には1日平均20〜30人が訪れる。

 「近い目標として来店客を100人にしたい。そして、スイスで体験したように、地域の方々との交流を大切にして、自分たちがいい、と思って取り組んでいることを伝えて、経営にもつなげていきたい。そのコミュニケーションがよりいいものを作るというモチベーションにもなると思います」

 健康な鶏を育てることに情熱を注いでいる一方で「健康な鶏が生んだ卵は本当においしい卵なのだろうか」という、大きなテーマにも取り組んでいる。陽さんは父・肇さんから「良い卵ってなんだろう」と折りに触れ、問いかけられるのだという。

 

おいしい鶏汁は養鶏場隣の売店で販売中!

 六次産業化で広がる農業の可能性

 健康な鶏を育てることから、色々な可能性が生まれている。

 「卵だけでなく、鶏の糞を堆肥にして農作物を栽培しています。卵を産まなくなった親鶏を利用した鶏汁の生産(六次産業化)も始めたところです」 

 名付けて「糸満がんじゅう鶏の鶏汁」は、スープのみ(塩味・しょうゆ味)とトウガンやニンジン、昆布などの具入りもある。もともと、親鶏を定期的に解剖して健康状態をチェックしていたそうだが、「平成29年度おきなわ型6次産業化総合支援事業補助金」を活用し、開発した鶏汁をレトルトにして店頭に出している。    さらにより良い商品開発のヒントを得ようと、JAの関連会社が主催した「県産親鶏の創作料理・講演会・試食会」などにも積極的に参加する。

 自身も琉球大学で畜産を学び、家業を継いだ父・肇さんは

 「大学で学んで現場に来て、わからないということがわかったと思う。若かった自分が悩んだことなので、手に取るように息子の状況がわかります。まずは、正解は決して一つではない、と伝えたい」

 まるで自身の若かりし頃を思い出すかのように目を輝かせて語った。

 「鶏が好き」という父、肇さんの後ろ姿を追って、同じ道を選んだ陽さん。これから大きな壁にぶち当たるかもしれないが、先を行く父には負けられないという意気込みを強く感じた。

 

 

父親の声
 上原 肇さん

私は卵づくりには魅力があると思う。無理強いはしないが、魅力を感じたらやってみるといい。きっと面白いと思う。

 

 

 

JA担当者の声

農業事業本部畜産部
 安里 歩

大学の後輩でもあり、いつも鶏の話や卵の販売の話で盛り上がります。勉強熱心なので、他県の情報にも興味しんしんで。

全農さんの担当者も案内し、話しを伺っています。

 

JAおきなわ広報誌:あじまぁ

地域で頑張る農家を紹介する「農業人(はるんちゅ)」はあじまぁに掲載されています。
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